サーマルリレーがトリップした時の対処|リセット前に確認すべき原因
現場で「モーターが止まった→サーマルがトリップしてる→リセットして再起動」……この流れ、実はかなり危険です。トリップは故障ではなく、サーマルリレーが仕事をした証拠。原因を放置してリセットだけ繰り返すと、最悪モーターの焼損につながります。
この記事では、サーマルリレーがトリップした時に「リセットボタンを押す前に何を確認すべきか」を、原因の切り分け手順から再発防止まで、現場のトラブルシュート目線で整理します。
サーマルリレーの「トリップ」とは何が起きている状態か
サーマルリレー(熱動継電器)は、モーターに流れる電流をヒートエレメントの発熱として検出する保護機器です。整定値を超える電流が流れ続けると、内部のバイメタルが熱で湾曲し、接点が動作します。これが「トリップ」です。
サーマルは「モーターの代わりに熱くなる身代わり」
モーター巻線が焼ける前に、サーマル側のヒートエレメントが先に「熱い!」と音を上げて回路を切る。つまりトリップした時点で、モーターは焼損一歩手前まで追い込まれていた可能性があるということです。
トリップするとサーマルのb接点(後述する95-96)が開き、電磁接触器(MC)のコイル回路が切れてモーターが停止します。同時にa接点(97-98)が閉じて、トリップ警報ランプやPLCへの異常入力に使われるのが定番の構成です。
リセットの前に必ず原因を確認すべき理由
トリップ対応で最もやってはいけないのが、原因不明のままリセット→再起動→また止まる→またリセットのループです。これを繰り返すと、こうなります。
- モーターへのダメージが蓄積する:過負荷状態のまま再起動を繰り返せば、巻線の絶縁劣化が進み、最終的に焼損・レアショートに至ります。
- サーマル自体も傷む:トリップと復帰を短時間で繰り返すと、ヒートエレメントや接点の劣化を早めます。
- 本当の原因が隠れる:機械側の引っかかりや欠相が原因の場合、リセットしても何も解決していません。「リセットしたら動いた」は、単に冷えて一時的に復帰しただけです。
サーマルのトリップは「異常の結果」であって「異常そのもの」ではありません。ブレーカーが落ちたら原因を探すのと同じで、サーマルも原因を潰してから復帰させるのが鉄則です。
原因の切り分け手順|現場で確認する6つのポイント
トリップの原因は大きく「機械側」「設定側」「電源側」「環境側」に分かれます。現場で確認しやすい順に見ていきましょう。
① モーターの機械的過負荷(引っかかり・軸受け不良)
最初に疑うのはモーターと負荷側の機械です。搬送物の噛み込み、チェーンやベルトの張りすぎ、ベアリング(軸受け)の劣化などで負荷が重くなると、電流が増えてトリップします。
- 電源を切って安全を確保した上で、手で軸が軽く回るか確認する
- 異音・異臭・軸のガタつきがないかチェックする
- 減速機やカップリング部の異常も合わせて見る
② 整定電流の設定ミス
「新設・改造後の初トリップ」ならまずここを疑います。サーマルの整定ダイヤルがモーターの定格電流より低く設定されていると、正常運転でもトリップします。逆に高すぎる設定は保護になりません。モーター銘板の定格電流と整定値を照合してください。
③ 欠相・電圧不良
三相モーターの1相が欠けると(ヒューズ切れ・接触不良など)、残りの相に過大な電流が流れてトリップします。テスターやクランプメーターで三相の電圧・電流バランスを確認しましょう。1相だけ電流が極端に違えば欠相や接触不良のサインです。電源電圧が低すぎる場合も、同じトルクを出すために電流が増えてトリップの原因になります。
④ 周囲温度・盤内温度
サーマルは「熱」で動作するため、盤内温度の影響を受けます。真夏に盤内が高温になっている、盤のファンやフィルターが目詰まりしている、といった状況では、電流が正常でもトリップしやすくなります。夏場だけトリップが増えるなら環境要因を疑いましょう。
⑤ 始動頻度・始動時間が過大
モーターの始動電流は定格よりかなり大きいため、短時間に始動・停止を繰り返す運用や、負荷が重くて始動に時間がかかる設備では、熱が蓄積してトリップします。設備の運用パターンが最近変わっていないか(サイクルタイム短縮・段取り変更など)も確認ポイントです。
⑥ 端子の緩みによる発熱
見落としがちなのがこれです。主回路端子のねじが緩んでいると接触抵抗で局所的に発熱し、その熱がサーマルに伝わって電流は正常なのにトリップすることがあります。電源を切った上で、サーマル前後の端子の増し締め・変色(焦げ跡)の有無を確認しましょう。
リセット方法と注意点|手動・自動の違いと接点番号の意味
原因を確認・対処できたら復帰させます。ここでも押さえるべきポイントがあります。
手動リセットと自動リセットの違い
- 手動リセット:人がリセットボタンを押すまで復帰しない方式。原因確認を強制できるため、保護の観点では基本こちらが推奨されます。
- 自動リセット:バイメタルが冷えると自動的に復帰する方式。人が近づけない場所などで使われますが、原因未解決のまま再起動を繰り返すリスクがあるため、回路設計側での配慮が必要です。多くの機種は切替式になっています。
冷えるまではリセットできない
トリップ直後にリセットボタンを押しても戻らないことがあります。これは故障ではなく、バイメタルがまだ熱くて復帰位置に戻れないだけです。数分待って、冷えてから操作してください。「リセットが効かない=サーマル故障」と早合点して交換に走る前に、まず時間を置きましょう。
接点番号 95-96 / 97-98 の意味
サーマルの補助接点には国際的な番号ルールがあり、トラブルシュートの時に読めると回路図の理解が一気に速くなります。
- 95-96(b接点):通常は閉じていて、トリップすると開く接点。MCのコイル回路に直列に入れて、トリップ時にモーターを止める役割です。
- 97-98(a接点):通常は開いていて、トリップすると閉じる接点。異常ランプやブザー、PLCへのトリップ信号に使います。
制御盤の中でこの番号を見つけたら「95-96が切れてMCが落ちた」「97-98で警報が上がった」と状況を組み立てられます。テスターで95-96間の導通を見れば、サーマルがトリップ状態かどうかも判断できます。
再発防止|整定値の見直しと記録の習慣
復帰させて終わりにせず、再発防止まで手を打つのが「頼れる担当者」への一歩です。
整定値はモーター銘板から見直す
整定電流の基本はモーター銘板に記載された定格電流を基準にすることです。「前任者がなんとなく合わせた値」がそのまま残っているケースは珍しくありません。トリップをきっかけに、銘板と整定ダイヤルを一度突き合わせておきましょう。計算が面倒なら、こちらのツールで確認できます。
トリップの記録を残す
「いつ・どの設備で・どんな状況でトリップしたか」をメモに残しておくと、次のトリップ時に傾向が見えます。
- 夏場に集中している → 盤内温度・環境要因の可能性
- 特定の製品・段取りの時だけ → 機械的過負荷の可能性
- 頻度が徐々に増えている → 軸受け劣化やモーター劣化の進行
また、トリップが頻発する回路ではMC側の接点も酷使されがちです。開閉頻度が多い設備なら、接触器やリレー自体の寿命も合わせて確認しておくと安心です。詳しくは電磁接触器・リレーの寿命と交換時期の目安で解説しています。
まとめ:トリップは「サーマルが仕事をした」サイン
サーマルリレーのトリップは故障ではなく、モーターを守るための正常動作です。だからこそ、リセットの前に「なぜトリップしたのか」を確認することが何より大事。機械的過負荷・整定ミス・欠相・盤内温度・始動頻度・端子の緩みの6つを順に潰し、原因に対処してから復帰させましょう。95-96/97-98の接点番号が読めるようになれば、回路図からの状況把握も一段と速くなります。トリップのたびに記録を残す習慣が、次のトラブルをぐっと減らしてくれますよ。
