はじめに
電気の世界では「電力」とひとことで言っても、実は使われ方によっていくつかの種類に分かれます。
中でも、資格試験でよく登場するのが「有効電力」「無効電力」「皮相電力」、そしてそれらの関係を示す「力率」です。
これらの用語は、交流回路を理解するうえで非常に重要であり、電験三種や第二種電気工事士などの試験にも頻出です。
一見すると難しそうに感じるかもしれませんが、それぞれの意味や役割、計算式をしっかり押さえれば、スムーズに理解できます。
この記事では、これらの電力の違いと関係性をやさしく解説し、実際の計算式や図解とともに資格試験対策にも役立つ内容をお届けします。
有効電力(P)
有効電力とは、実際に仕事をする電力のことを指します。
たとえば、電球を光らせたり、モーターを回したり、ヒーターで熱を出したりするために使われる電力です。
この電力は、電気エネルギーがそのまま「熱」や「運動」といった目に見える形の仕事に変わっている部分です。
■ 単位は「W(ワット)」
電力会社から供給される電気の使用量は、基本的にこの有効電力をもとに料金が計算されます。
つまり、私たちが「電気を使った」と感じる部分の電力と言えるでしょう。
■ 計算式
有効電力 P は、以下の式で表されます:
P = VI cosθ
- V:電圧(V)
- I:電流(A)
- θ:電圧と電流の位相差(°)
- cosθ:力率(効率よく使えている割合)
ここで重要なのは「位相差(θ)」です。
交流回路では、電圧と電流に時間差(ズレ)があることが多く、そのズレが効率に影響を与えます。
このズレがない(θ=0°、cosθ=1)のが理想的な状態で、このとき最大の有効電力が得られます。
■ 試験対策ポイント
- 「有効電力は仕事に使われる電力」→必ず押さえておくこと
- 「P = VI cosθ」は公式として暗記
- 力率が低くなると、同じS(皮相電力)でも有効電力は小さくなる
無効電力(Q)
無効電力とは、実際の仕事には使われないが、回路を成り立たせるために必要な電力のことです。
主にコイル(リアクタンス)やコンデンサが関係しており、電圧と電流の間でエネルギーの「やりとり」をする電力です。
たとえば、電流が流れるたびにコイルに一時的にエネルギーが蓄えられ、また放出されるというように、行ったり来たりするだけで仕事には変換されません。
このような電力は「見えない動き」のようなもので、電力会社にとっては送電効率を悪化させる原因にもなります。
■ 単位は「var(バール)」
「無効」というと「不要な電力」と思われがちですが、交流機器の動作には必要不可欠な存在です。
ただし、多すぎると送電設備への負担が増えるため、無効電力の管理(力率改善)が重要になります。
■ 計算式
無効電力 Q は、以下の式で求められます:
Q = VI × sinθ
- V:電圧(V)
- I:電流(A)
- θ:電圧と電流の位相差(°)
この式からもわかるように、無効電力は位相差があるときに発生します。
θが大きいほど、sinθも大きくなり、無効電力が増える=効率が下がるということです。
※sinθの求め方については下記の記事を参考にしてください。
無効率とは?無効率(sinθ)の求め方をやさしく解説
■ 試験対策ポイント
- 無効電力は「使われないけど必要な電力」
- コイルやコンデンサが登場したら無効電力に注目
- 式は「Q = VI sinθ」または「Q = S sinθ」も使われる
皮相電力(S)
皮相電力とは、有効電力と無効電力を合わせた“見かけ上の電力”のことです。
電圧と電流を単純に掛け合わせた値で、「その機器や回路が必要とする電気の総量」と考えるとイメージしやすいです。
■ 単位は「VA(ボルトアンペア)」
VAは「ボルトアンペア」と読みます。これはW(ワット)と違い、“使われるかどうかに関係なく、回路に流れている電力”を表します。
そのため、電気機器の定格容量(最大でどのくらいの電力に耐えられるか)は、この皮相電力(VA)で表記されることが多いです。
■ 計算式
皮相電力 S は、以下の式で求められます:
S = VI
または、有効電力 P と無効電力 Q を使って:
S = √(P² + Q²)
- V:電圧(V)
- I:電流(A)
- P:有効電力(W)
- Q:無効電力(var)
この関係は「電力三角形」と呼ばれ、ピタゴラスの定理のように P・Q・S の三辺が成り立ちます。
■ 試験対策ポイント
- 式「S = VI」は基本中の基本
- P・Q・S の関係「S² = P² + Q²」も頻出!
- 機器の容量(定格)はVAで表記されていることが多い
力率(Power Factor)
力率とは、電力の“使われ方の効率”を表す指標です。
もっと具体的に言うと、「流れている電力のうち、どれだけが実際の仕事(有効電力)に使われているか」を割合で示したものです。
■ 単位は「%」または「小数」
力率は通常、小数(0.8など)またはパーセント(80%など)で表されます。
数値が高いほど効率よく電力が使われており、理想的には100%(=1.0)を目指すのが基本です。
■ 計算式
力率 cosθ は、以下の式で求められます:
力率 = P ÷ S = cosθ
- P:有効電力(W)
- S:皮相電力(VA)
- θ:電圧と電流の位相差(°)
この式からもわかるように、力率が高いと無駄が少ない電力使用ができているということになります。
■ 試験対策ポイント
- 力率 = 有効電力 ÷ 皮相電力
- 高力率は「効率が良い」、低力率は「無駄が多い」
まとめ
ここまで、有効電力・無効電力・皮相電力・力率について順を追って解説してきました。
それぞれの意味と関係性をしっかり理解しておくことは、資格試験で得点源となるだけでなく、実務でも非常に役立ちます。
● おさらいポイント
用語 | 意味 | 単位 | 公式 |
---|---|---|---|
有効電力(P) | 実際に仕事に使われる電力 | W | P = V×I×cosθ |
無効電力(Q) | 仕事には使われないが必要な電力 | var | Q = V×I×sinθ |
皮相電力(S) | 有効+無効=見かけ上の電力 | VA | S = V×I、 S = √(P² + Q²) |
力率(cosθ) | 電力の使われ方の効率 | なし(小数や%) | cosθ = P ÷ S |
● 電力三角形で関係を視覚化!
有効電力(P)、無効電力(Q)、皮相電力(S)の関係は「電力三角形」で整理するのが最も効果的です。
この三角形を覚えておけば、計算問題もスムーズに解けるようになります。
● 試験対策として覚えておきたいこと
- 有効電力はW、無効電力はvar、皮相電力はVA!
- 公式はすべて覚えるべし!
- 力率=効率!
- コンデンサによる力率改善の仕組みも理解しておくと応用問題にも強くなる!
これらの基礎を押さえておくことで、電験や電気工事士などの資格試験での得点アップが期待できます。
さらに、日常の電気設備の理解にもつながるので、ぜひこの知識を自分のものにしていきましょう!