サーマルリレーとブレーカーの違い|過負荷保護と短絡保護はなぜ両方必要なのか【制御盤の基礎】
どちらも「落ちる」機器だが、守る対象と検出する現象が違う
制御盤の中で「落ちる」機器と言えば、ブレーカー(MCCB・サーキットプロテクタ)とサーマルリレーです。どちらも異常があると回路を止めるので、若手のうちは「似たような保護機器が2つ並んでいる」と見えがちです。
違いは、守る対象と検出する現象にあります。サーマルリレーはモーターの過負荷を熱で検出して守る機器、ブレーカーは短絡や過電流から配線と機器を守る機器です。この記事では、その違いと「なぜ両方要るのか」、盤の中での並び、トリップしたときの見分け方を順に整理します。
サーマルリレー=モーターの過負荷を「熱」で検出する
サーマルリレー(THR、熱動継電器)は、モーターの過負荷保護を受け持つ機器です。主回路の電流がバイメタル素子(ヒートエレメント)を通り、整定電流を超えた状態が続くと熱で変形して接点を開きます。この動作が「トリップ」です。
ここで押さえたいのは、サーマルリレーが開くのは主回路ではなく、制御回路側の接点だという点です。b接点(95-96)がMCのコイル回路に直列に入っており、トリップするとMCのコイルが消磁して主接点が開き、モーターが止まります。つまりサーマルリレーは「MCに止めさせる」機器で、主回路の大電流を自分で遮断するわけではありません。
もうひとつの特徴は時間です。熱で動くため、整定電流を少し超えた程度ではすぐには動きません。全電圧始動では始動時に定格の5〜7倍の電流が流れますが、通常のサーマルリレーはこの突入電流を考慮した遅延特性を持っているので、始動のたびにトリップすることはありません。逆に言えば、定格を少し超えた電流が流れ続ける「じわじわ型」の異常を拾うのがサーマルリレーの仕事です。
整定電流はモーター銘板の定格電流に合わせ、目安は定格電流の100〜110%です。決め方の手順はサーマルリレーの整定電流の決め方:モーター銘板から逆算する手順にまとめています。
ブレーカー(MCCB・CP)=短絡・過電流から配線と機器を守る
制御盤で「ブレーカー」と呼ばれるのは、主に配線用遮断器(MCCB)とサーキットプロテクタ(CP)です。どちらも定格電流より大きい電流が流れ続けると、回路を守るためにトリップし、その回路の電流そのものを遮断します。役割を一言で言えば「電流が流れすぎたら、その回路を止める」ことです。
- MCCB(配線用遮断器):過電流(短絡・過負荷)を検知して回路を遮断する。漏電は検知しない。動力分岐に使う
- CP(サーキットプロテクタ):制御電源(AC100V/200VやDC24V)など、制御回路・分岐回路の保護に使う。MCCBは容量が大きすぎて制御回路の保護には不向き
- ELCB(漏電遮断器):MCCBの機能に漏電保護を加えたもの。盤の主幹(電源引き込み部)に置く
ブレーカーには「定格電流」と「定格遮断容量」という2つの数字があります。定格電流は通常運転で連続して流せる電流の上限(単位はA)、定格遮断容量は短絡などの異常時に安全に遮断できる最大電流(単位はkA)です。短絡電流はkA単位で語られる大きさで、定格遮断容量を超える電流が流れると保護機器自身が壊れる・遮断できないリスクが出ます。短絡の瞬間に主回路を安全に切る。これがブレーカーの受け持つ仕事です。
MCCBとELCBの使い分け、AF/ATの選び方は配線用遮断器(MCCB)と漏電遮断器(ELCB):制御盤での選び分けを参照してください。
なぜ両方必要なのか:過負荷と短絡は「電流の大きさ」も「時間」も違う
過負荷と短絡は、どちらも「電流が多い」異常ですが、規模と時間がまったく違います。
| 項目 | 過負荷 | 短絡 |
|---|---|---|
| 電流の大きさ | 定格を少し超える程度から | kA単位で語られる大電流 |
| 時間 | 流れ続けて熱がたまると危険 | 起きた瞬間に遮断が必要 |
| 守る対象 | モーター(巻線の焼損) | 配線と機器 |
| 受け持つ機器 | サーマルリレー | MCCB・CP |
ブレーカーだけではモーターの小さな過負荷を拾えない
動力分岐のMCCBは、AT(アンペアトリップ)をモーター定格電流の1.25〜2.5倍程度で選びます。始動電流(全電圧始動で定格の5〜7倍)で落ちないようにするためです。この設定では、サーマルリレーの整定範囲(定格の100〜110%)をわずかに超えた電流が流れ続けるような過負荷は、MCCBのトリップ値に届きません。モーターは焼損に向かって熱を持ち続けますが、ブレーカーはそれを「異常」とは見なさないのです。
この領域を受け持つのがサーマルリレーです。整定電流を定格電流の100〜110%に合わせることで、ブレーカーが見逃す「じわじわ型」の過負荷を検出します。だから動力分岐は、分岐MCCBが主に短絡保護、電磁開閉器(MS)のサーマルリレーが過負荷保護、という分担になります。
サーマルリレーだけでは短絡を止められない
逆に、サーマルリレーは短絡保護の機器ではありません。理由は2つあります。ひとつは検出方式で、熱で動くサーマルリレーは動作に時間がかかり、短絡の瞬間には対応できません。もうひとつは止め方で、サーマルリレーはMCのコイル回路を切るだけであり、主回路の大電流を自分で遮断する機器ではありません。短絡電流を安全に切る能力(定格遮断容量)を持つのはMCCBやCPです。
まとめると、過負荷保護と短絡保護は「どちらか一方では守れない」別々の仕事であり、モーター回路にはサーマルリレーとブレーカーの両方が入ります。なお、インバータ駆動のモーターでは過負荷保護をインバータの電子サーマルに任せ、MCだけを選定してMSにしない設計もあります。その場合でも、分岐の短絡保護はMCCB側の役目です。
制御盤の中での並び:電源→MCCB→MC→THR→モーター
役割が分かると、盤の中の並びも読めるようになります。モーター1台分の動力分岐は、上流から次の順です。
- 主幹ELCB:電源引き込み部。盤全体の地絡保護を担う
- 分岐MCCB:その分岐の短絡保護
- MC(電磁接触器):コイルで主接点3極を開閉し、モーターを動かす
- THR(サーマルリレー):主回路の電流を発熱体で受け、過負荷を検出する
- モーター
MCとTHRをセットにしたものが電磁開閉器(MS)で、MCが「動かす」役割、THRが「守る」役割です。制御回路側は押しボタン→THRのb接点→MCコイルのループになっていて、THRがトリップするとb接点が開き、MCコイルが消磁して主接点が開きます。「動かす回路」と「守る回路」が制御回路側のb接点でつながっている、という構造です。構成の詳細は電磁開閉器(MS)とは?MCとサーマルリレーの組み合わせを理解するを参照してください。
制御電源(DC24V系)は別系統で、CP→パワーサプライ→DC24V制御回路の順です。こちらにはモーターがないのでサーマルリレーは入らず、CPが回路保護を受け持ちます。
トリップしたとき、どちらが動いたか見分ける
モーターが止まったとき、サーマルリレーとブレーカーのどちらが動いたかで、次に見るべき場所が変わります。
- サーマルリレーがトリップした場合:b接点(95-96)が開いてMCが落ちています。テスターで95-96間の導通を見れば、トリップ状態かどうか判断できます。a接点(97-98)を警報ランプやPLCの異常入力につないでいれば、そこからも分かります。主回路を切っているのはMCなので、分岐MCCBは入ったままです。
- ブレーカーがトリップした場合:主回路そのものが遮断されています。MCの状態に関係なく、その下流には電気が来ません。
どちらの場合も、復帰の前に原因を確認します。サーマルリレーのトリップは故障ではなく保護機器が仕事をした結果で、原因不明のままリセットと再起動を繰り返すとモーターの焼損につながります。ブレーカーが落ちたら原因を探すのと同じで、サーマルリレーも原因を潰してから復帰させるのが鉄則です。確認する6つのポイント(機械的過負荷・整定ミス・欠相・盤内温度・始動頻度・端子の緩み)とリセット時の注意はサーマルリレーがトリップした時の対処|リセット前に確認すべき原因にまとめています。
なお、トリップ直後のサーマルリレーはバイメタルが熱くて復帰位置に戻らないことがあります。故障ではないので、冷えてから操作します。
よくある質問(FAQ)
Q1. サーマルリレーだけでブレーカーの代わりになりますか?
A. なりません。サーマルリレーはモーターの過負荷を熱で検出し、MCのコイル回路を切ってモーターを止める機器で、短絡電流を直接遮断する機器ではありません。短絡から配線と機器を守るのはMCCBやサーキットプロテクタの役目なので、動力分岐はMCCB(+サーマルリレー)で保護する構成が基本です。
Q2. ブレーカーがあればサーマルリレーは不要ですか?
A. モーター回路では不要になりません。動力分岐のMCCBはAT(アンペアトリップ)をモーター定格電流の1.25〜2.5倍程度で選ぶため、定格を少し超えた過負荷が続く状態は拾えません。サーマルリレーは整定電流をモーター定格電流の100〜110%に合わせて、その領域を受け持ちます。ただしインバータ駆動で過負荷保護をインバータの電子サーマルに任せる設計では、サーマルリレーを付けない構成もあります。
Q3. サーマルリレーはなぜモーターにだけ付くのですか?
A. モーターは搬送物の噛み込みや軸受けの劣化などで負荷が重くなると電流が増え、定格を超えた状態が続くと巻線の絶縁劣化が進んで焼損に至る機器だからです。サーマルリレーはモーターの代わりに先に熱くなって回路を切る「身代わり」として、モーターごとに銘板の定格電流に整定電流を合わせて取り付けます。
Q4. トリップしたらどちらが動いたか見分けられますか?
A. 見分けられます。サーマルリレーがトリップした場合はb接点(95-96)が開いてMCが落ちるので、テスターで95-96間の導通を見ればトリップ状態かどうか判断できます。a接点(97-98)を警報ランプやPLCの異常入力につないでいれば、そこからも分かります。ブレーカーがトリップした場合は主回路そのものが遮断されています。どちらの場合も、原因を確認してから復帰させてください。
まとめ
サーマルリレーとブレーカーの違いは「守る対象」と「検出する現象」です。
- サーマルリレー:モーターの過負荷を熱で検出し、MCのコイル回路を切って止める。整定は定格電流の100〜110%
- ブレーカー(MCCB・CP):短絡・過電流から配線と機器を守り、主回路を直接遮断する。動力分岐MCCBのATはモーター定格電流の1.25〜2.5倍程度
- 両方必要な理由:過負荷と短絡は電流の大きさも時間も違い、どちらか一方では守れない
- 並び:電源→主幹ELCB→分岐MCCB→MC→THR→モーター。制御電源はCPが受け持つ
- トリップしたら:95-96の導通などでどちらが動いたかを見分け、原因を確認してから復帰する
