コイルのサージ対策|ダイオード・バリスタ・CRの使い分けと接続方向
リレーを切った瞬間、コイルの中で何が起きているか
「PLCのトランジスタ出力が1点だけ死んだ」「リレーの接点が妙に早く荒れる」。原因を追いかけていくと、行き着く先が「コイルのサージ対策をしていなかった」だった、というのは現場でよくある話です。
リレーや電磁接触器(MC)のコイルは、通電を切った瞬間に高い電圧(逆起電力)を発生させます。たかが小型リレーのコイル1個でも、このサージは駆動側の半導体を破損させたり、接点の寿命を大きく縮めたりするだけの威力を持っています。コイルのような誘導負荷がなぜ厄介なのかはリレーの誘導負荷と抵抗負荷の違いで解説していますが、この記事ではその対策側、つまり「サージをどの部品で、どう抑えるか」を整理します。
サージ(逆起電力)とは何か:コイルは電流を維持しようとする
コイルには「流れている電流を維持しようとする」性質があります。通電中のコイルは磁気エネルギーを蓄えていて、スイッチを切って電流の通り道が断たれると、そのエネルギーを電圧に変えて「なんとか電流を流し続けよう」とします。回路が開いているので行き場がなく、結果として発生する電圧はどんどん高くなります。DC24Vのコイルでも、遮断の瞬間には数百V級のサージ電圧が発生することがある、というのがこの現象の恐いところです。
被害の出方は主に3つです。
- 半導体出力の破損:PLCのトランジスタ出力やセンサー出力でコイルを直接駆動していると、サージが素子に直撃します。一発で壊れることもあれば、ダメージが蓄積してある日突然ONしなくなることもあります。
- 接点の荒れ・消耗:機械接点でコイルを切ると、開いた接点間にサージ電圧がかかってアークが発生します。これが接点表面を荒らし、溶着や接触不良の原因になります。
- ノイズ:サージは急峻な電圧変化なので、周囲の信号線にノイズとして飛び込みます。「リレーが動くたびにセンサーの値が暴れる」といった症状の裏にコイルサージが潜んでいることがあります。
つまりサージ対策は「駆動側を守る」「接点を長持ちさせる」「ノイズ源を潰す」の三役を兼ねる、地味ですが効果の大きい一手です。
対策部品3種の使い分け:ダイオード・バリスタ・CR
コイルサージの対策部品は、コイルと並列に入れる素子として大きく3種類あります。それぞれの動作原理と向き不向きを押さえましょう。
ダイオード(DC専用・最も簡便)
DCコイルの対策としては定番中の定番です。コイルと並列に、通常の電流方向に対して逆向き(逆並列)にダイオードを入れておくと、通電中はダイオードに電流が流れず、遮断の瞬間だけコイルの逆起電力による電流がダイオードを通ってコイル内をぐるぐる還流します。蓄えたエネルギーはコイル自身の抵抗で熱として消費され、サージ電圧はダイオードの順方向電圧程度に抑え込まれます。部品1個で済み、抑制効果も高い方式です。
ただし弱点があります。エネルギーをゆっくり消費させる方式なので、リレーの復帰(釈放)時間が延びる傾向があるのです。高速でON/OFFを繰り返す用途や、リレーが切れるタイミングが機械の動作タイミングに直結する用途では、この遅れが問題になることがあります。また、原理上DC専用です。AC回路には使えません(理由は後述の「よくある間違い」で触れます)。
バリスタ(AC・DC両用)
バリスタは「一定の電圧を超えると急に電流を流し始める」性質を持つ素子です。普段は絶縁体のように振る舞い、サージ電圧がバリスタ電圧を超えた瞬間だけ導通してエネルギーを吸収します。極性がないためAC・DCどちらのコイルにも使えるのが強みで、ダイオード方式ほど復帰時間が延びにくいのも利点です。
注意点は、サージを「ゼロにする」のではなく「バリスタ電圧までに抑える」方式だということです。バリスタ電圧の選定は回路電圧との兼ね合いで決まるので、内蔵タイプや専用品を使うのが確実です。
CR(スナバ)回路(主にAC向き)
コンデンサと抵抗を直列にしたものをコイル(または接点)と並列に入れる方式で、スナバ回路とも呼ばれます。急峻な電圧変化をコンデンサが受け止めてなまらせるイメージで、AC回路のサージ・アーク抑制によく使われます。
注意点はリーク電流です。コンデンサはACに対して完全には電流を遮断しないため、回路がOFFのはずでもCRを通してわずかな電流が流れ続けます。負荷が小型リレーやSSRのように小さな電流で動作するものだと、このリーク電流だけで「切ったはずなのに復帰しない」「うっすらONし続ける」といった誤動作の要因になりえます。SSRとリーク電流の関係はSSRとは?でも触れています。
3方式の比較表
| 方式 | 使える電源 | 抑制効果 | 主な注意点 |
|---|---|---|---|
| ダイオード | DC専用 | 高い(順方向電圧程度まで抑制) | 復帰時間が延びる傾向/極性あり・逆接続厳禁 |
| バリスタ | AC・DC両用 | バリスタ電圧までに抑制 | 電圧選定が必要(内蔵品・専用品が確実) |
| CR(スナバ) | 主にAC向き | 急峻な変化をなまらせる | リーク電流あり(SSR等の誤動作要因になりうる) |
ざっくりまとめると「DCならダイオードが基本、復帰遅れが気になるならバリスタ、ACならバリスタかCR」が使い分けの出発点です。細かい特性は機種・条件によるので、迷う場合はリレーメーカーの推奨に従うのが確実です。
ダイオードの接続方向:逆並列(カソードを+側)
ダイオード方式で絶対に外してはいけないのが向きです。ルールはひとつだけです。
コイルと並列に、カソード(帯マークのある側)を電源の+側に向けて接続する。
この向きなら、通電中はダイオードに逆方向の電圧がかかるので電流は流れず、コイルは普通に動作します。遮断の瞬間だけ逆起電力の向きがダイオードの順方向と一致し、還流ループが成立してサージを吸収します。
逆に付けるとどうなるか。ダイオードの順方向が電源の向きと一致してしまうので、通電した瞬間にダイオードが電源の+と−を直結する短絡経路になります。ダイオードは過電流で破損し、電源短絡による回路保護の動作(ヒューズ断・電源のトリップ)や、駆動側素子の破損につながります。「サージ対策のつもりで付けた部品が事故の原因になる」典型パターンなので、後付けするときは向きを指差し確認するくらいでちょうどいいです。
現場での確認方法はシンプルで、ダイオードの本体に印刷されている帯(カソードバンド)を見ます。帯のある側がカソードです。「帯を+に向ける」と覚えてください。配線後はテスターのダイオードレンジで向きを確認しておくと確実です。
「内蔵型を選ぶ」という選択肢が実は最も確実
ここまで後付けの話をしてきましたが、実務でおすすめしたいのは選定段階でサージ吸収素子内蔵のリレーを選んでしまうことです。後付け配線は、向きの間違い・付け忘れ・盤改造時の脱落といったヒューマンエラーの余地が残ります。内蔵型なら素子の選定も向きもメーカーが保証済みで、配線もすっきりします。
例えばオムロンのMYシリーズなら、ダイオード内蔵タイプは型式に -D2、CR内蔵タイプは -CR といった記号が付きます。ここでよくある勘違いがひとつ。MY2Nなどの「N」は動作表示灯付きを表す記号で、サージ吸収とは別物です。「Nが付いてるからサージ対策済みでしょ」は間違いなので、内蔵型が欲しいときは形式のサージ吸収記号(-D2や-CRなど)を確認してください。
MY2Nを使った実際の配線例はNPN・PNP変換はリレーで解決!MY2Nを使った配線図と現場の救済術でも紹介しているので、あわせて読むとリレー周りの配線感覚がつながります。
よくある間違い3選
間違い1:AC回路にダイオードを入れる
ダイオードはDC専用です。AC回路に入れると、電源の半サイクルごとにダイオードが順方向になり、コイルと並列の短絡経路として動作してしまいます。「DCで使い慣れているから」とACコイルに流用しないでください。ACならバリスタかCRです。
間違い2:ダイオードの向きを逆に付ける
前述の通り、逆付けは通電した瞬間に電源短絡です。後付け作業では帯マーク(カソード)が+側を向いているか、通電前に確認する手順を挟みましょう。
間違い3:そもそもPLC出力にコイル負荷を直結している
サージ対策以前の問題として、PLCのトランジスタ出力で電磁弁やMCコイルを直接駆動している構成を見かけることがあります。定格電流の面でもサージの面でも出力素子を痛める構成です。まず中間リレーを挟んで駆動側を切り離すのが基本で、詳しくは中間リレーとは?PLC出力に直接負荷をつないではいけない理由で解説しています。中間リレー自体のコイルにも、サージ吸収内蔵型を選んでおくのが実用的です。
まとめ
- コイルは遮断の瞬間に高電圧のサージ(逆起電力)を発生させ、半導体出力の破損・接点荒れ・ノイズの原因になる
- 対策部品はダイオード(DC専用・簡便で効果大)、バリスタ(AC/DC両用)、CR(主にAC向き)の3種
- ダイオード方式は復帰時間が延びる傾向、CRはリーク電流に注意。細かい特性は機種・条件による
- ダイオードはコイルと並列に逆並列接続、カソード(帯マーク側)を電源+側へ。逆付けは電源短絡になる
- 後付けよりサージ吸収内蔵リレーを選定段階で選ぶ方が確実。MYシリーズの「N」は表示灯の記号で、サージ吸収は-D2や-CRなど別の記号
サージ対策は目に見えない電圧との戦いなので後回しにされがちですが、「PLC出力が突然死んだ」「接点がすぐダメになる」というトラブルの多くはここで防げます。コイルを見たら並列の吸収素子を確認する。この癖をつけておくと、盤の信頼性が一段上がります。
