電磁弁が動かない時の切り分け手順|出力は来ているのにシリンダが動かない原因
この記事で使う切り分けの中心は、電磁弁に付いている手動操作ボタンです。押せばプログラムに関係なくシリンダが動きます。可動部に手や工具が入っていないか、動いて困る位置に治具やワークが無いかを必ず確認してから押してください。人が挟まれる可能性のある場所では、原則として一人で操作しないでください。
PLCのモニタでは出力がONしている。出力ユニットのLEDも点いている。それなのにシリンダが出てこない——装置のトラブルで頻繁に出る症状です。電磁弁は電気とエア(空気圧)の境界にある部品なので、電気屋から見るとエア側が見えず、機械屋から見ると電気側が見えず、お互いに相手のせいに見えてしまう場所でもあります。
ここを短時間で決着させる方法があります。電磁弁の手動操作ボタンを押すことです。これ一つで「電気が悪いのか、エアが悪いのか」がほぼ分かれます。この記事では、そこを入口に切り分けの順番を整理します。
ここでは出力は出ている(と確認できている)のに電磁弁が動かないケースを扱います。そもそもYがONしない、出力ユニットのLEDが点かない、といったPLC側の切り分けはPLCの出力が出ない時の切り分け手順にまとめています。まだ出力の確認ができていないなら、先にそちらを見てください。
最初の分岐|手動操作ボタンで電気側とエア側を分ける
多くの空圧用電磁弁には、本体に手動操作ボタン(手動操作ねじ)が付いています。コイルに通電する代わりに、機械的に弁を切り替えるためのものです。試運転や配管確認のために用意されている機能で、これを押したときの反応で原因が二つに分かれます。
- 手動操作でシリンダが動く → 電気側の問題です。エアは来ていて、弁も切り替わる。つまり「弁を動かすための電気」が届いていないか、コイルが働いていない。ケースAへ進みます。
- 手動操作でも動かない → エア側か、弁そのものの問題です。電気をいくら追いかけても解決しません。ケースBへ進みます。
この一手で調べる範囲が半分になります。電磁弁のトラブルで遠回りする典型は、手動操作を試さないまま配線とプログラムを往復することです。実際にはエアの元栓が閉まっていた、というオチも珍しくありません。
電磁弁は電気とエアの境界にある。境界の部品は、まず境界のどちら側かを決めてから中を見る。
なお、手動操作ボタンには押している間だけ切り替わるタイプと、回すとその位置で保持されるタイプがあります。保持されるタイプを使ったときは、必ず元の位置に戻してください。戻し忘れると、以後その弁はプログラムの指令を受け付けているように見えて実際は手動で固定されたまま、という非常に分かりにくい状態になります。切り分けが終わった後の戻し忘れは、それ自体が次のトラブルの原因になります。
ケースA|手動では動く=電気が弁に届いていない
弁もエアも生きているので、あとは「コイルに正しい電圧がかかっているか」だけの話です。順番に見ます。
① コイル端子の電圧を実測する
推測を挟まずに、電磁弁のコイル端子(またはコネクタ)で直接電圧を測ります。出力をONさせた状態で測るので、活線作業になります。テスターの当て方に不安があればテスターの使い方【制御盤編】を先に確認してください。
- 電圧が出ていない → 出力から弁までの間で切れています。②へ。
- 電圧は出ているのに動かない → コイルか弁側の問題です。③へ。
ここで重要なのは、盤の中の端子台ではなく、できるだけ弁に近い側で測ることです。端子台で電圧が出ていても、そこから先のケーブルが断線していたりコネクタが抜けかけていたりすれば、弁には届いていません。装置の可動部に沿って配線されている電磁弁は、繰り返しの屈曲でケーブルが痛みやすい場所でもあります。
② 電圧が来ていない場合|どこまで来ているかを段で追う
出力側から弁側へ、順に測る位置を移していきます。電圧が出ている最後の点と、出ていない最初の点の間が原因の区間です。
- コモン側の確認。片側だけを測って「電圧が無い」と判断するのがよくある誤りです。電圧は2点間の差なので、コモンが外れていても弁側の端子は電圧が無いように見えます。コモン系統がまとめて落ちている場合、同じコモンにぶら下がる弁が全部動かないという形で症状が出ます。1台だけ動かないのか、まとまって動かないのかは最初に確認しておくと早いです。
- 中間リレーを挟んでいる場合。PLCの出力で直接電磁弁を駆動せず、間にリレーを入れている構成では、そのリレーが動いているかを先に見ます。リレー本体の表示窓や動作音で判断できます。中間リレーを入れる理由そのものは中間リレーとは?PLC出力に直接負荷をつないではいけない理由で整理しています。
- コネクタの緩み・半挿し。電磁弁は端子台ではなくコネクタ接続のものが多く、振動で少しずつ抜けることがあります。抜けかけていると、動いたり動かなかったりという一番厄介な出方をします。
③ 電圧は来ているのに動かない場合|コイルを疑う
定格の電圧がかかっているのに弁が切り替わらないなら、コイルが仕事をしていません。電源を切ってからコイルの抵抗をテスターで測ります。
- 導通が無い(抵抗が振り切れる)→ コイルの断線・焼損です。交換になります。
- 焦げた臭いがする、コイル部が変色している → 焼損しています。この場合は交換して終わりにせず、なぜ焼けたかを必ず見てください。同じ条件が残っていれば、新品も同じように焼けます。
もう一つ、意外に多いのが電圧種別の取り違えです。同じ形状の弁にDC24V用とAC100V用がある製品では、コイル部分だけが違うということが起こります。予備品から持ってきた弁が別電圧仕様だった場合、DC用にAC電圧をかければ即座に焼け、逆にAC用にDC電圧をかけると電圧はかかっているのに動かない、あるいは唸るだけという症状になります。交換直後から動かない場合は、部品の仕様を先に確認してください。
④ ダブルソレノイドの「同時ON」
左右に2つのコイルを持つダブルソレノイド(2位置ダブル)では、両側を同時にONしてはいけません。両方から押されるので弁は切り替わらないか、どちらに寄るか分からない不定の状態になります。しかも両コイルが通電し続けるため、発熱の面でも良くありません。
これはハードの故障ではなくプログラム側の作り込みの問題です。片側をONするときにもう片側を必ずOFFする、という排他の処理が入っているかを確認します。特に、条件を追加した直後や、他装置のプログラムを流用した直後に出やすい症状です。出力を保持する命令の使い方はOUT/SET/RST命令の使い方で整理しています。
また、シングルソレノイド(片側だけコイルがあり、OFFするとばねで戻るタイプ)とダブルソレノイドでは、停電したときの挙動が違います。シングルは電気が切れれば必ず初期位置に戻り、ダブルは切れた位置をそのまま保持します。復電後に装置の状態がおかしいときは、この違いが関係していることがあります。
ケースB|手動でも動かない=エア側か弁の固着
手動操作をしても動かないなら、電気の話は一旦終わりです。空気が来ていないか、来ていても出口が無いか、弁や機構が動けない状態になっています。上流から見ていきます。
① 元圧が来ているか
まず装置に空気が供給されているかを圧力計で確認します。元栓が閉まっている、フィルタが詰まって圧力が落ちている、他の装置と共用していて取り合いになっている——このあたりは実際によくあります。「昨日まで動いていた」場合ほど、真っ先に確認する価値があります。
圧力が規定に届いていないと、シリンダは動かないというより動きが弱い・途中で止まるという出方をすることもあります。完全に止まっている場合だけでなく、「なんとなく遅い」ときも圧力を疑ってください。
② スピードコントローラ(スピコン)の絞りすぎ
シリンダの速度調整用に付いているスピコンを締め切っていると、空気が流れずシリンダは動きません。誰かが調整した後、あるいは搬送・据付の際に触れて回ってしまったケースがあります。片方向だけ動かない場合は特に疑う価値があります(スピコンは往きと復りで別々に付いているため)。
③ 消音器(サイレンサ)の詰まり
見落としやすいのがここです。電磁弁の排気ポートには消音器が付いていることが多く、これが目詰まりすると空気が抜けられません。入る側が正常でも、出る側が塞がっていればシリンダは動けません。
症状の出方に特徴があります。「出るけど戻らない」「動きが極端に遅くなった」「だんだん悪化してきた」——これらは消音器の詰まりで典型的に出る形です。粉塵の多い環境や、油分がミストとして回る環境では消耗品として詰まっていきます。切り分けとしては、消音器を一時的に外して動きが変わるかを見ます(外すと排気音が大きくなるので、周囲に一声かけてから行ってください)。
④ 弁そのものの固着・異物
上流も下流も問題ないのに手動でも切り替わらないなら、弁の内部で固着している可能性があります。長期間動かしていない弁、配管内の異物やドレン(水分)が入り込んだ弁で起こります。ここまで来たら交換が現実的です。
⑤ 機械側で止まっている
最後に、弁は切り替わっているがシリンダが動けないというケースもあります。ワークが噛み込んでいる、治具が干渉している、ストッパに当たっている、機械的にロックされている——といった状態です。電磁弁の切り替わる音がしているのにシリンダが動かないなら、この線を疑います。この「電気は正常だが機械が動けない」構図はモーターでも同じで、モーターが回らない・唸る時の原因切り分けでも同じ考え方を扱っています。
繰り返しコイルが焼ける場合|交換だけで終わらせない
交換した弁がまた焼ける、という状況は「部品が悪い」ではなく条件が残っていると考えます。見るべきところは決まっています。
- 電圧が仕様と合っているか。前述のとおり、電圧種別・電圧値の取り違えは一発で焼けます。
- 連続通電になっていないか。短時間の動作を想定した使い方の弁に、プログラムの都合で長時間通電し続けていないかを確認します。動作としては正常に見えるので、発熱で気づくことが多い部分です。実際に触れて熱すぎないか(触れられる状態かどうか含めて安全に配慮して)確認します。
- サージ対策が入っているか。電磁弁のコイルは誘導負荷なので、OFFの瞬間に高い電圧が発生します。これは弁自身よりも、駆動している接点やトランジスタを傷めます。対策部品の選び方と向きを間違えると意味が無い点についてはコイルのサージ対策|ダイオード・バリスタ・CRの使い分けと接続方向にまとめています。
- 周囲温度。盤内や装置内で熱がこもる位置にある弁は、それだけ条件が厳しくなります。
同じ弁が繰り返し壊れるなら、その弁が悪いのではなくその場所の使い方が厳しいということです。記録を残しておくと、次に同じ装置を作るときの設計に効きます。
まとめ
電磁弁が動かないときは、いきなり配線図やプログラムを開かず、手動操作ボタンで電気側とエア側を分けるところから始めます。
- 手動で動く → 電気側。コイル端子で電圧を実測し、出ていなければ配線・コモン・中間リレーを段で追い、出ているならコイルの断線・焼損か電圧種別の取り違えを疑う
- 手動でも動かない → エア側か弁。元圧 → スピコン → 消音器 → 弁の固着 → 機械側、の順に上流から下流へ
- 「出るけど戻らない」「だんだん遅くなった」は消音器の詰まりが典型
- ダブルソレノイドの同時ONはプログラム側の問題。ハードを疑う前に排他処理を見る
- 手動操作を保持位置にしたまま戻し忘れない。次のトラブルの原因になる
- 繰り返し焼けるなら交換で終わらせず、電圧・通電時間・サージ対策・温度を見る
電磁弁は電気とエアの境目にあるので、担当が分かれている現場ほど原因が宙に浮きやすい部品です。手動操作ボタン一つで境界のどちら側かを言えるようになると、話が早く進みます。
